金森穣氏と東京バレエ団が三年の月日をかけて造り上げた「かぐや姫」の初演を観てきた。舞台を見て涙と鳥肌の両方を体験したのは初めてだった。観客はスタンディングオベーションで新たな姫の誕生を祝福した。主催者の許可を得て、個人的な感想を記しておきたい。
かぐや姫の脚本は物語の骨格を維持しながら大胆に加筆されていた。童子、翁(両方、オペラに出てきそうなキャラ)などを組み込んだ脚本と演出は世界に通用するだろう。
帝の正妻である影姫とかぐや姫の陰陽のコントラストは一貫して見事だった。影姫のバレエは圧巻で、光を放ち続けたかぐや姫も素晴らしかった。
月の満ち欠けなどCGを駆使した演出には目を見張った。舞台装置も精緻で、かぐや姫と恋人である童子が引き離される場面は秀逸だった。
農村の姿を象徴的に描いた場面は、映画「七人の侍」や演劇「野の火」などで描かれてきた貧しくとも強かに生き残る日本の農民を思い起こさせた。
孤独で虚勢を張れば張るほど弱さが垣間見える帝の姿も心をうった。この世には誰一人として全てを満たされている人はいない。争いが絶えない時代だからこそ、欧米的な勧善懲悪ではない物語を日本から世界に発信してもらいたい。
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