国会終了後の7月25日、超党派のLGBT議連では、LGBT理解増進法成立後の各省庁の対応についてヒアリングをしました。新たに内閣府に10人の担当者が置かれたことは大きな前進ですが、トイレ問題や学校での教育のあり方など難しい問題については腰が引けている印象でした。
政府の担当者が慎重なのも無理はありません。LGBT理解増進法成立後、自民党には「女性を守る議連」が誕生するなど法案を巡る対立があるからです。対立を際立たせるのではなく、着地点を見出すことこそ政治の役割だと私は考えています。
■LGBT当事者の懸念
私のLGBT当事者の友人達が懸念しているのは「性的指向またはジェンダーアイデンティティに関わらず、全ての国民が安心して生活することができるよう留意する」という修正条文の影響です。公衆浴場やトイレなどの女性の空間が侵害されるのではないかとの懸念に応えるために加えられたものなのですが、条文化にはもう少し慎重な検討が必要だったと感じています。
歴史的に少数者の権利は多数派によって侵害されてきました。水俣病の患者の皆さんは、チッソの城下町でしばらくは声を上げることができなかったという歴史もあります。特定の社会的身分や門地にある人々、女性、障害者などがかつて多数派の理解を得られず、少数者の権利保護が遅れてきた歴史を考えても、少数者の権利は本来、多数派の理解に関わらず最優先で尊重されるべきです。
偏見や差別に苦しんできたLGBT当事者の皆さんを「常に多数派の顔色を見ながら生きていかなければならないのではないか」という気持ちにさせてしまったことが本当に残念です。
■「体は男性、心は女性」の人は女湯に入れないことが明確に
私は女性の権利を守るために、個別の問題に対して丁寧に対応することが重要だと考えています。
LGBT理解増進法成立後、公衆浴場での男女の入浴ルールに関する通知を厚生労働省が出しました。以前からあった公衆浴場の衛生管理要領には「おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと」と書かれています。通知では、この「男女」は「身体的特徴をもって判断する」とされており「例えば、体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要がある」と書かれています。私自身、法案審議の前から厚生労働省に対してこうした措置を取るべきだと主張していました。通知に関しては、責任の一端を持つ者として今後の推移を注意深く確認していきたいと思います。
私の知るトランス女性は、公衆浴場ではなく家族風呂を利用しています。男性から女性に転換している体を他人に見せることはしたくないということです。もちろん、理念法であるLGBT理解増進法は、男性の体の人に公衆浴場の女湯に入る権利を与えるものではありません。しかし、「ジェンダーアイデンティティ」という概念が法律に導入されたことで、将来的には性転換手術をしていないトランス女性(戸籍の上では男)が女風呂に入りたいと主張する可能性も捨てきれません。
公衆浴場の経営者に聞いたところ、これまでも女装した男性(性自認も男)が女風呂に入ってくる例が何年かに一度あるようです。こうした行為は建造物侵入罪であり犯罪です。こうした犯罪を未然に防ぐためにも通知の意味はあると考えます。今回の通知は、都道府県や保健所設置市などを通じて公衆浴場の管理者に徹底されることになります。
■デリケートなトイレ問題
経済産業省のトランスジェンダー職員について、庁舎内の女子トイレ使用を制限してきたことは違法であるとの最高裁判決が出ました。今回の判決はこの個別ケースを違法としたものですが、トランスジェンダーの従業員のいる他の企業に対応をうながすことになるでしょう。彼女のように女性として仕事をしている人は、職場の同僚の理解を得て女性トイレを利用できるようにすることが一番良い方法だと思います。他方、職場のトイレを公衆トイレと同じように扱って良いかと問われると、それほど簡単ではありません。
具体的な検討に入る前に、私のVoicy(音声放送)に対して頂いたあるコメントをご覧ください。
昔、市民プールで私は小学校1年生の頃、若い男性にいたずらをされたことがあります。私はスイミングの仲間やコーチと遊びに行っており、不自然に私に近寄ってくる男性に気づいたコーチがすぐに来てくれましたが、心配をかけたくないし、何をされたのかを言葉にするのが恥ずかしくて言えませんでした。その後、同じことがもう一度続きました。怖くて今でも鮮明に覚えています。親にも言えず、友達にその話をすることができたのは20歳を過ぎてからでした。
幼少期に性犯罪の被害にあっている女性は非常に多いです。私は何度も怖い思いを経験してきました。大人にはどうしても言えないのです。LGBTの方々の権利も女性の権利もどちらも大切で難しい問題だと思います。全員が満足できる答えは出ないと思いますが、親になって思うのは、子どもたちが守られる安全な社会であってほしいということです。
お互いが快適に暮らせる社会を目指すのは当然の権利ですが、それ以上に子どもたちのような弱者が安心して暮らせるようになることを望みます。しかし、トイレの件や性犯罪が起こりやすい場所については賛否が分かれるものですね。例えば、トイレの出入り口が1つしかないことについて、どうにか改善できないかと思います。私は子どもたちに公衆トイレには絶対に親以外の人と入ってはいけないと伝えています。ただ、トランスジェンダーの方々が気兼ねなくトイレを利用できる環境を作ることも重要です。職場で働いている相手に対して、もう少し理解を示すこともできるのではないかと思いました。
■公衆トイレには「だれでもトイレ」の設置を
小さい女の子を狙う卑劣な犯罪に強い憤りを感じます。こうした性犯罪はトランス女性ではなく男性の犯罪者によるものです。トランス女性に対する偏見や差別が広がることは避けなければなりませんが、体も性自認も男なのに女装した男が女性用の公衆トイレを自由に使える状況を放置することになれば、女性トイレが犯罪の温床となるリスクがあります。
私は、原則として公衆トイレにおいては男性・女性トイレとは別に「だれでもトイレ」の設置を義務付け、トランスジェンダーにはそのトイレの利用を促すべきだと考えます。東京の地下鉄や新幹線の駅にはすでに「だれでもトイレ」が備えられています。今後は、利用者の少ない駅や公園にも「だれでもトイレ」の設置を進め、民間企業にも促すべきです。
トランスジェンダー、障害者など「だれでもトイレ」が無いことで外出を躊躇している人たちがいます。「だれでもトイレ」には、赤ちゃんを連れた人のためのベビーチェアはもちろん、車いすの人も入れるスペース、重症心身者のためのユニバーサルシート等も設置することで、誰もが安心して外出できる環境を作る必要があります。
■女性スポーツの問題も考えておくべき
欧米ではスポーツ界でも同様の議論が行われています。男性で生まれながらも女性への性転換手術を受けた人が女性の競技会に参加することを認めるかどうかという問題です。
元々男性の遺伝子を持つトランス女性が出場することで、努力を重ねてきた女性が無駄になってしまうという懸念が一部で現実のものとなっているようです。LGBT理解増進法が成立したばかりの日本において、そのような事態がすぐに起こるとは思えませんが、権利の衝突には早めに備えておくべきでしょう。
■同性婚についても議論を
LGBT法案と時を同じくして、福岡地裁で同性婚についての違憲判決が出ました。この数年間で出た5件の地裁判決の中の4件が違憲または違憲状態というものです。同性婚の法整備は当事者以外の人々の生活への影響は少ないのですが、自民党内の同性婚についての反応を見ていると道は険しいとも思います。
ゲイやレズビアンのカップルは、社会保障の第3号被保険者や扶養の枠がなく、相続もできないなど、異性のカップルが結婚によって得ることができる経済的なメリットを受けることができません。同性婚についても議論する時期が来ていると思います。
■ダイバーシティを受け止める社会に
私の友人に、体は女性で性自認は男性であり、ホルモン注射などを受けている若者がいます。すでに見た目が男性的なので女性トイレに入ることもできず、男性トイレに入るのにも躊躇する日々を送っています。外出した際は、人が入っていないタイミングを見計らって公衆トイレを利用していると話していました。
LGBTの問題に取り組むと風当たりは強く、正直しんどいと感じることもあります。しかし、こうした若者たちが自らの個性を大切にして生活できる未来をつくるのは、我々の世代の責任です。これからも逃げずに取り組んでいこうと思います。
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