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2021.03.09

検査開始当時の政府責任者として福島の甲状腺検査方法の抜本的変更を勧告する

 

ようやく質問の機会が訪れました。無所属議員には院内の様々な会議での発言の機会は与えられても、国会での質問の機会は多くありません。「言論が政策を動かすことがある」ということを証明するべく、福島県で行われてきた甲状腺検査について2月26日に開かれた予算委員会分科会で小泉進次郎環境大臣に質問しました。

 

率直に言って、福島の甲状腺検査に対する国会議員の関心は高くありません。私のこの問題にこだわり続ける最大の理由は、検査開始直後の政府の責任者だったからです。そして、この問題の深刻さを認識した以上、行動を起こさないわけにはいきません。

 

2011年6月、私は原発事故収束担当大臣に就任し、9月から環境大臣を兼務し、福島の健康問題は環境省が担当することとなりました。2011年秋に始まった県民健康調査は県が実施主体となり、環境省は福島県民健康管理基金をつくり財政的に後押しすることになりました。実態の把握が難しかった当初、チェルノブイリ原発事故で大量に発生した甲状腺がんを懸念する福島県民は多く、県民健康調査の中心は甲状腺検査となりました。今行われている甲状腺検査は、私が閣僚として支出を決めた基金が取り崩されて行われているものです。

 

私が懸念しているのは、原発事故から10年が経過し、子どもたちの健康を長期に見守るために始まった甲状腺検査が、むしろ不安と誤解、風評、そして不必要な弊害を増長していることです。是非とも、委員会の動画を見ていただきたいと思います。

 

 

最大の問題は甲状腺検査が生涯にわたって体に害を及ぼすことのない病気を診断する「過剰診断」である問題です。放射線被曝によって発症のリスクが高くなる甲状腺乳頭がんは、がんの中でも最も予後の良い(治りやすい、命を脅かしにくい)がんで、体調に異変を感じることはほとんどないため、多くの人ががんの存在に気付かないまま日常生活を送っています。甲状腺がんを持ちながら他の病気で亡くなるまでがんの存在に気づかずに過ごす人が10%程度いることが多くの病理学者の研究によって明らかになっており、検査全体の30%以上の人が無症状の甲状腺がんを持っていたとのフィンランドの論文もあります。

 

検査で甲状腺がんと診断された場合、多くの若者は手術を選択します。私の妻は20年ほど前に甲状腺がんの手術を受けました。甲状腺の腫れが出たため、担当医と慎重に相談した上で手術を行いました。妻の場合は大きく腫れた甲状腺を切除するメリットが大きく手術の選択は間違っていませんでしたが、術後も傷跡は残り、相当の期間、処方された薬を飲み続けなければなりませんでした。生命保険に入ることはできないというデメリットもありました。

 

甲状腺がんの診断を受けた若者が結婚や就職などで受けるデメリットは、妻が経験したものとは比較にはなりません。甲状腺検査の実務を担ってきた医師の緑川早苗氏は女性が手術を行った場合、生理不順や流産のリスクが高まる可能性にも言及しました。それが一生必要ない手術、または数十年先にやればよかった手術であれば、その人生に与えるマイナスの影響は甚大です。

 

福島の甲状腺検査では、4回目までに252人が「悪性ないし悪性の疑い」と診断され、そのうち202人が手術を受けてがんが確定しています。しかし、199人は乳頭がんであり、本当に手術が必要であったかどうか疑問が残ります。

 

甲状腺検査の弊害に気が付いてから何人かの福島選出の国会議員に自身の子どもに甲状腺検査を受けさせているかどうか尋ねてみたところ、「受けさせていない」と回答する人が多くいました。私自身、仮に娘が福島で生活していたとしても10年が経過した今となっては甲状腺検査を受けさせるつもりはありません。自らが選択しないことを福島の方々に強いる(あえてこの表現を使うのは、学齢期の子どもについては実質的に悉皆検査に近い運用がなされているから)ことはできません。

 

福島の甲状腺検査に対する国際社会の厳しいまなざし

WHOの関連組織であるIARCの専門家グループは、2018年10月に公表した報告書の提言で「原発事故後の甲状腺の系統的なスクリーニング(集団に対して行われる検診を指す)は推奨しない」としています。緑川早苗氏は、将来、福島の甲状腺検査は国際社会から倫理的な問題を指摘される可能性があります。詳しくは私との対談をご覧ください。

 

福島の甲状腺検査の倫理的問題を問う(第一部)

福島の甲状腺検査の倫理的問題を問う(第二部)

福島の甲状腺検査の倫理的問題を問う(第三部)

 

今も、自らの健康に不安を持つ福島の方々はいます。甲状腺検査そのものは今後も無料で継続していくべきだと思います。重要なのは任意性の確保です。今後の検査の対象は本当に希望する人のみに限定されるべきです。

 

小泉環境大臣は「省内で何ができるか検討に入りたい」と答弁しましたが、この答弁で引き下がる気持ちにはなりませんでした。私が小泉大臣に何度も迫ったのは、学校の授業時間中に行われている検査のやり方の変更です。私は任意性を確保するために、学校での検査は廃止して希望者が指定された場所に行って検査すべきだと考えています。それが難しいならば、最低限、学校検査の時間帯を放課後に移すことを提案しました。

 

小泉進次郎環境相への期待

私の繰り返し迫ったところ、小泉大臣は最後に次のように答弁しました。

「同調圧力に近いもので受けざるをえない環境を放置しないよう考えます」

これまで私は、甲状腺検査のやり方の変更を環境省の担当者に求めてきましたが、検査の実施主体である福島県の意向もあり、実現しませんでした。改革は福島県民から支持を得ている小泉大臣でなければ実行できないと思います。私の思いは小泉進次郎大臣に届いたと信じています。政治家として動いてくれることを期待したいと思います。

 

甲状腺検査の問題には、もちろん私も引き続き取り組みます。原発事故から10年を契機に多くの方々に福島の甲状腺検査について知ってもらいたいと思います。詳しくは『東電原発事故自己調査報告』をお読みください。

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