いきなり個人的な話で恐縮ですが、6月25日に議員生活20年を迎えました。初挑戦の時、28歳だった私は家族と友人に宣言しました。
人生20年かけて政治にチャレンジする!
その歳月が経ったわけです。思えば私も若かった。20年政治に全力で取り組み、区切りをつけようと考えていました。政治家としての歩みは想像していた以上に厳しく志は道半ばですが、これからは政治家人生を終える時を意識して、なすべきことをなしていこうと思います。
思い起こせば、その折り返し点で遭遇したのが原発事故でした。この20年を振り返ると、私の政治家としての最大の仕事は原発事故対応だったと思います。全身全霊で取り組みましたが、今も多くの問題が積み残されています。中でも東京電力福島第一原発にたまっている処理水は、差し迫った最大の課題です。しかし、この問題に取り組んでいる政治家は少数です。
処理水は原発事故の負の遺産であり、この問題に取り組んで批判を受けることはあっても、評価されることはほとんどないという現実があります。ましてや自らの選挙へのプラス要素は全くありません。私がこの問題に取り組む理由はただ一つ。原発事故直後の責任者であった私には、処理水に対する責任があるからです。ここで何としても決着させたいと考えています。
トリチウムの海洋放出を先送りにしたことで2人が殉職。タンクに処理水を保管し続けるという選択肢はあり得ない
処理水については、事故直後より様々な方法が検討されてきました。トリチウムを除去するには膨大な電力を要し、全ての処理水からトリチウムを除去するのは現実的ではありません。結論から言うと、私はトリチウムを含む処理水を海洋放出する以外の選択肢はないと考えています。
「とりあえずタンクに保管していた方がいいのではないか」
処理水の話をすると必ずこうした指摘がなされます。しかし、原発敷地の現状を確認すると一目瞭然、敷地内がタンクで埋め尽くされていることが分かります。
Googleマップで福一を見ると、処理水タンクの設置に限界が来ていることが分かる。 pic.twitter.com/03sRTOwP9Z
— 細野豪志 (@hosono_54) February 15, 2020
すでにタンクの並ぶ環境は廃炉作業に支障をきたすレベルに達しています。加えて、敷地内にはこれから取り出される燃料デブリの置き場所も必要です。理屈の上では、タンクを置く場所を敷地外に設けることも考えられますが、原発周辺は除染廃棄物の中間処理施設となっており現実的ではありません。
タンク保管を続ける弊害も数多くあります。
第一に、現状の保管を続けると、処理しきれていない放射性物質が漏洩するリスクがあります。
処理水タンクの強度は当初と比較すると改善されましたが、一時的な保管場所となっているため耐震構造にはなっていません。タンク内の水が外部からの振動で揺れる『スロッシング』によりタンクが破損するリスクは常にあります。地震に加えて津波、竜巻、台風などリスクをあげればきりがありません。
第二の問題は、処理水タンクは全て放射性廃棄物となることです。
今後もタンクによる保管を続ければ放射性廃棄物は増え続け、最終的にはそれらをいずれかの場所で処分をしなければなりません。
第三の問題は、タンクの水漏れや劣化をチェックする作業は大きな負担と危険を伴うことです。
これまでにタンクをチェックしていて誤って転落し、死亡した作業員がいます。私がこれまで会った現場の作業員の多くが、敷地内に処理水を保管し続ける負担の大きさを話していました。
「凍土壁の工事では作業員が1人、感電で亡くなっています。貯水タンクを作っている最中にもタンクから落下して1人亡くなっている。トリチウムの海洋放出を先送りにしたことで2人が殉職している。人命と何千億円というお金が費やされている」
福島で対談した原子力規制委員会の田中俊一初代委員長の発言です。リスクとコストを度外視して保管を続けてきたのが処理水なのです。皆さんに、是非ともそのことに気が付いて頂きたいと思います。詳しく知りたい方は動画をご覧下さい。
保管されているタンクの水をそのまま海に出すという悪質なデマ
原発事故を巡ってはこれまで様々な風説が流布されてきました。残念ながら今もその一部が残っており、処理水も例外ではありません。
「現在備蓄されている処理水にはトリチウム以外の核種も含まれているので海洋放出するのは危険だ」
これまで、この指摘を数えきれないくらい受けてきました。現在、備蓄されている処理水の中にはそのまま海に流せないものが一部に含まれています。放射性物質を含む水を処理してきた多核種除去設備 (ALPS)の性能が、初期の段階では高くなかったためです。
放出する前には、トリチウム以外の核種を告示濃度限度(極めて濃度が低く問題のないレベル)まで除去(二次処理)し、安全性を慎重に確認する作業が必要になります。こうしたオペレーションは現在も他の原発でも行われおり、特別なものではありません。
これまで「備蓄されている危険な汚染水をそのまま流す」といった明らかなデマが何度も拡散されてきました。その中には、意図的に流されたものもあったと思います。
昨年来、韓国政府は処理水の放出について科学に基づかない政治的主張を国際社会で繰り返してきました。日本国内のデマを放置してきたことが、韓国の政治的かつ理不尽な主張につながったと私は考えています。
昨年末の首脳会談で安倍総理が具体的な数字をあげて韓国大統領に反論したのは、これまでにはない適切な対応でした。従来の対応を改め、国内外で発せられる科学に基づかない主張に対しては、毅然とした対応をするべきです。
専門家は処理水の海洋放出を何度も進言してきた
最初に処理水の海洋放出を明確に明言した専門家は、田中委員長だったと思います。2013年7月、今から7年前の発言を紹介します。
「きちんと処理して基準値以下になった汚染水を海に排出することは避けられない」
更田豊志現委員長も就任後、田中委員長の見解を引き継ぎ、「海洋放出するしかない」との見解を繰り返し述べてきました。今年2月に日本を訪れたIAEAのグロッシ事務局長も海洋放出を評価する発言をしています。
「海への放出は国際的な慣行と一致したやり方だ。非常事態でなくても世界中で厳しい安全基準に基づいて海への放出は日常的に行われている」
IAEA、処理水放出時に支援 グロッシ事務局長、福島原発視察 | 2020/2/26 – 共同通信 https://t.co/K3J43jaG0x
— 共同通信公式 (@kyodo_official) February 26, 2020
経済産業省は「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」を設け、長年にわたって議論をしてきました。放出した際の社会的な影響については様々な意見が出ていましたが、専門家である委員から科学的な安全性についての異論は出ませんでした。小委員会は、様々な方法を検討した上で『海洋放出が現実的』との報告書を出しました。
このように多くの専門家の見解を見ても、科学的な結論は出ているのです。
トリチウムの排出基準を各国はどのように設定してきたか
処理水の最大の問題は、トリチウムの除去が難しいところにあります。トリチウムの持つ性格については、資源エネルギー庁のサイトに記載されています。ちなみにエネ庁のサイトはトリチウム以外についても分かりやすい説明がなされており詳しく知りたい方は必見です。
各国はICRP(国際放射線防護委員会)の考え方に基づいてトリチウムの排出基準を設けており、現在も海洋放出を行っています。日本と同様に濃度基準を設けている国から見ていきたいと思います。それぞれ若干数字は異なりますが、各国が一定の前提を置いて、その濃さの水を毎日一定量飲み続けた場合、被ばく線量1mSv/年となるところから逆算しています。
日本 60,000 Bq/L
米国 37,000 Bq/L
韓国 40,000 Bq/L
これらの基準は相当に安全サイドに立ったものです。もちろん実際にはその水を毎日飲むことはあり得ませんし、バリウムを飲んで胃のX線検査検査をすると3mSv被ばくしますから、1mSvは健康上の問題は全くありません。
英国のように施設ごとに総量基準を設けている国もあります。
発電所毎 80~700 兆Bq/年
セラフィールド再処理施設 18,000 兆Bq/年
使用済み燃料の再処理施設は、わが国で利用されている軽水炉原発と比較して多くのトリチウムを排出します。続いて同じく再処理施設のあるフランスです。
発電所毎 45兆 Bq/年
ラ・アーグ再処理施設 18,500 兆Bq/年
最後にカナダの原発。トリチウムが大量に発生する重水炉は桁が違います。
発電所毎 370,000~46,000,000 兆Bq/年
福島の処理水は仏の再処理施設の年間放出量の14分の1という事実。そして青森県六ヶ所村でも。
各国はそれぞれの基準に基づいてトリチウムを環境中に放出してきました。それでは福島の処理水を『各国の放出実績』と比較するとどうなるでしょうか。福島のタンクに貯蔵されている処理水のトリチウムの総量は約1,000兆Bqです。
仏のラ・アーグ再処理施設で一年間に排出されるトリチウムは約1京3,700兆ベクレルですので、福島のトリチウムはその14分の1程度です。言い換えると、福島のトリチウム総量の10倍以上をフランスは毎年のように放出していることになります。
日本国内でも同様のことが行われてきたことはあまり知られていません。
2007年、わが国の青森県六ヶ所村の再処理施設からは1300兆ベクレルのトリチウムが海洋放出されました。福島で貯蓄されている総量を大きく上回る量が、地元の同意を得て一年間で放出されたのです。有名な『大間のマグロ』はその北側の津軽海峡で取れます。我々(私は食べた記憶がほとんどありませんが…)はトリチウム水が放出された海を回遊している大間のマグロを美味しく食べてきたのです!
こうした『客観的な事実』を踏まえれば、福島の処理水を一年で放出しても科学的には何の問題もありません。継続して流し続けると風評被害も長引く可能性がありますので、個人的には短期間で処理を終えるというやり方もあったと思います。しかし東京電力から示されたのは、廃炉に要する30年から40年をかけて処理水を海洋出するという方法でした。
ちなみに、韓国国内の月城原発は、2016年に液体放出すなわち海洋放出で17兆Bq、気体放出で119兆Bqのトリチウムを排出しています。東京電力が提案する方法を採用した場合、福島の年間排出量は韓国の原発の排出量を下回りますので、もはや韓国から批判を受ける道理はありません。
長期にわたって海洋放出を行う場合、風評被害を防ぐためには徹底したモニタリングと情報公開を継続することが必要不可欠です。そこは東京電力以上に、政府に大きな責任があります。
福島に寄り添い、差別とは断固として戦う
3.11の後、私は毎年福島への後援会旅行を行い、日常的に福島産の果物や魚介類を食べてきました。それだけに、処理水に対する福島の方々の不安、中でも漁業関係者の懸念は理解できます。
政府は処理水についての『ご意見を伺う場』を設け、松本洋平経産副大臣が中心となって福島内外の関係者の意見を聞いてきました。依然として反対意見があるのは事実です。しかし、処理水に関する解決方法が一つしかない以上、私は福島のためにも問題をいつまでも先延ばしするべきではないと考えます。
福島を除く国内および国外からの処理水放出に反対する声には毅然と反論する必要があります。トリチウムは世界中でそれぞれの国の基準に基づいてこれまでも放出されてきたし、今も放出され続けています。
私が理解できないのは、処理水の海洋放出に反対している人たちが、福島以外の国内外のトリチウム水の放出について沈黙していることです。
ここまで書いてきましたので、はっきり言いましょう。国内外で行われているトリチウムの放出には目をつぶり、福島からの放出は認めない、もしくは福島で放出されたトリチウムに関してのみ汚染を問題にするということであれば、それは取りも直さず福島に対する差別です。それに加担するメディアがあるならば、彼らもその例外ではありません。
海洋放出を決断する時が来た。問われる政治家の判断
原発事故後、私が抱えていた最大の課題は、被災地の瓦礫の広域処理とブラックアウトのリスクがあった関電の大飯原発の再稼働でした。激しい反対に直面しましたが、有事において決断から逃げることは許されませんでした。平時の決断は先延ばしができるだけに難しい面があり、これまで政府は決断を先延ばししてきました。それももはや限界です。
処理水は2022年夏には敷地内で保管できる量を超えます。海洋排出の決断がなされたとしても、その後の説明と実現プロセスに2年ほどの時間を要することを考えると、残された時間はありません。
処理水の問題は、野党の判断も重要になってきます。科学的事実を無視して反射的に反対するのだけは避けてもらいたいと思います。総選挙の可能性が指摘されるようになり、頑なに『汚染水』と呼び続ける議員の発言を目にすると心配になります。しかし、私は損得を超えて国民のために判断できる議員が野党の中にも数多くいること知っています。これまでも与野党を問わず個別の議員に働きかけてきましたが、正念場を迎えるこの局面でできる限りのことをしたいと考えています。
間もなく8年となる安倍政権に対して国民の中に厳しい声が出てきています。しかし、長期政権でなければできないことがあるのも間違いありません。処理水の決断はまさにそうした問題です。最後は政治が決めるしかありません。私は政府の決断を徹底してサポートすることで自らの責任を果たしたいと考えています。
(追伸)処理水についてはシリーズで動画を作成しています。詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
@yoshumility さんの漫画もおすすめです。私が処理水問題に取り組む中で一緒に風評被害の払しょくのために戦ってくれた戦友です。
風評との戦い編 第16話
ここまでのまとめ。
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