前回の記事では日本のLGBTに対する変化と、日本が多様性を認めないことによるビジネス視点からの大きな弊害についてお話しいただきました。
今回は、柳沢さんが手術のために入院した際に感じたLGBTとそうでない人との不平等性や、LGBTの「理解増進法」に対する見解、そして4/28に行われるレインボーパレードなどについてのお話を伺います。
【柳沢正和(やなぎさわ・まさかず)】1977年東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。メリルリンチ証券等を経て、現在も外資系金融機関勤務。自身がゲイであることをカミングアウトし、世界中に中継されたTedxTokyoでのスピーチは「史上最大級のカミングアウト」と報道された。LGBTが素敵に歳を重ねていける社会づくりを応援する認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ、学校法人UWC ISAK評議員、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ東京委員会ヴァイス・チェアを務める。
■ほしいのは権利ではなく、あたりまえの自由
細野:
日本における人権や自由ってやや履き違えられているんですよ。全員がそれを完璧に理解して、コミュニティに入ってきてください、というわけじゃないんですよね。「放っておかれる」自由や「関与されない」権利が大切なんだと思います。
柳沢さん:
たしかに人権というと特権みたいに扱われていますけど、その誤解されている部分をどう埋めていくか、というのはつねに課題だと思います。
実は去年、入院して全身麻酔をする手術を受けたんですよ。その際に「NTT東日本病院」という逓信病院と呼ばれる昔からある病院に入ったんですけど、NTTグループというのは、性的指向・性自認に関係なくサービスを提供し、従業員の場所作りをする、というのを掲げていらっしゃるので、入院するときに家族として同性パートナーをはじめから認めているんですよ。
だから、病状や術後の説明も全部パートナーにしてくれた。
柳沢さん:
手術をするってすごく怖いじゃないですかk。そんなときに、「実は私はLGBTのGで〜」なんて説明するキャパシティなんて心のなかにない。
でも最初から、同意できる家族のなかに同性パートナーが入ることが担保されていることで心の安全面がすごくありました。
自分が1番大切にしている家族を病室に入れてあげたい、と思う気持ちを誰にも阻止されたくないんです。
せめて、それくらいのことは担保させてほしい、という気持ちです。
細野:
私が以前に初めてレズビアンの方と話したときも同じようなことを話されていました。自分やパートナーが交通事故に遭ったり大きな病気をしたときに家族として扱えない、あるいは扱ってもらえない。その恐怖感や切実さをわかってほしいと。
柳沢さん:
たしかに、東京都の条例もできたし、法務省の取り組みなど世の中は変わってきているけど、それをいちいち説明するのも大変です。
たとえば、僕のパートナーのご両親は九州に住んでいて、彼はご家族にはカミングアウトしてない状況だから、もし、彼が入院したときに私はご両親に自分のことをどう説明すればいいのだろう、と悩んだりもします。
それを、「わかってほしい」と押し付けるのではなく、何かうまい方法は見つけたいとは思うんですけど難しいですね。
そういった漠然とした不安感はつねに抱えています。
■LGBTを受け入れる若者、拒絶する上の世代
細野:
政党やイデオロギーの問題ではなく、年齢・世代も影響しているかもしれません。
先日、国会で高校生未来会議があったんですが、彼らに聞いてみると、ほとんどみんなまわりにそういったカミングアウトをしている方がいるから、支持政党関係なく理解があるんです。
上の世代の人には、周りにいないから理解してもらうのにはかなりハードルが高い感じはします。
これは、政治の問題そのものなんです。国会議員や有権者の構成が上の世代だからこそ、どうしても「受け入れられない」という意見が優勢になってしまう。
ただ、来年はオリンピック・パラリンピックイヤーなので、ここに来て 「理解増進法」というのが出てきました。
これに関してはどう思いますか?
柳沢さん:
私が仲間と一緒に『レインボー国会』という院内集会を始めてから4年が経ちましたが、法制化自体が全然見えないなかで、苛立ちもありました。やっぱり国は重い腰を上げてくれないんだと。
その一方で、20近くの自治体でパートナーシップ制度の導入が進められ、国が動かないのであれば地方自治体にも同時に働きかけよう、と活動をしてきました。
ただ、やっぱり個別の地方自治体だけだと、たとえば渋谷区で発行されたパートナーシップが北区では使えないからパートナー証明書を使って住宅ローンを組んだ場合はどうなるのか、というような問題が起き始めています。だから半ば諦めながらも、やはり国レベルで取り組んでほしいという思いはすごくあるんです。
ただこういった法律は議員立法で、国会が全会一致が原則であり、保守系議員も含めてLGBTについて取り組んでいるのは嬉しいですが、どうしてもすごく基本的で理念的なものになる。
ギリギリまでよいものにすべく、頑張っていただきたいと思っています。理解を増進していくのはすばらしいけど、具体的な生活の困難まで解決してくれるかというと、そういうわけではないので。
先日も同性の友人カップルがあからさまに同性だとダメと言われ、アパート探しに困難を極めた例を見ていて、まだまだ状況は変わらないなと思っています。
細野:
中身の問題もありますが、成立するところまで行けるかどうかですね。自民党案は、まだ法案になっていないようです。オリンピック・パラリンピックの前には何とかしたいですね。
■レインボーパレードで見てほしい、渋谷で生きるLGBTの人たち
柳沢さん:
そして、政治家の方にできれば気付いていただきたいのが、イギリスだと保守党が同性婚法案を推進したということ。
なぜなら、彼らにとってはLGBTを疎外させるのではなく、家族とか地域共同体などの既存の社会の制度にはまっていくことが非常に重要だからです。
同性婚を求めるのは、結婚という伝統的な仕組みを支持する保守的な考えを持つということでもあります。
だからたとえば、何か新しく制度を作るのではなく、LGBTについて既存の学校教育のなかで知ってもらうとか、今まで日本が大切にしてきた仕組みを強化していくような方向もあると思います。
また、意外とLGBTの人が身近にいることに気付かない人も多いんですよ。地方の人には、東京で起きていることだと思われていることもある。ところが、僕が毎年参加している東京レインボープライドでは、実はいろんな地方の団体からのブースがあります。
「自分は地元で会ったことがなかった」と言う人が多いですけど、実は全国各地にカミングアウトなんてとてもできない仲間がいる。
それは、「百聞は一見にしかず」だと思うので、ぜひ一度パレードに訪れてみてほしいです。ありがたいことに参加人数は年々増えていっていて、去年は13万人集まりました。
細野:
渋谷の街のパレードを見る目もあたたかいですよね。渋谷って実は東京の人が少ないんですよ。そういうを受け入れる街として全国から人が集まっているんでしょうね。
柳沢さん:
4年前に渋谷のパートナーシップ制度の導入が決まったとき、「渋谷にゲイの人が集まって乱痴気騒ぎになる」なんて懸念意見がありました、でも、今の渋谷の街を見てほしいんです。
カップルで大事に子どもを育ててる人たちや、制度導入をきっかけに親と向き合い、パートナー含め家族と渋谷で生きている人たちがいます。
パレードも、昔は当事者がサングラスやマスクをして自分自身を隠している人が多かったですが、今はそれが外され、ベビーカーを押して、家族と歩くようなパレードになりました。
今年の4/28に開催されるパレードでは、ぜひその姿を見てほしいと思います。懸念を払拭し、むしろいいコミュニティになっているという揺るぎない事実を。
〈文・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉
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